田中 明(たなか あきら)
「夜遅くに食べると太る」という話、昔からをよく聞きます。夜遅い時間に食事をすると、昼食から時間が空きすぎて、余計に空腹感を感じ、ドカ食いの危険性が。また、夜遅くだと、大量に食べなくても、なぜかどんどん体重が増加してしまうことが多くて……。さらに、夜遅くに食べると、朝、お腹が空かないので、朝食を抜く人が多いようです。
炭水化物(糖質)と脂質は、カラダを動かすのに必要なエネルギー源です。しかし、夜遅くに食べると、後は寝るだけ。ご飯やパンなどの炭水化物、揚げ物や脂肪分の多い肉など油っぽいモノを食べると、エネルギーとして消費されず、脂肪として体内に溜め込まれてしまうのです。それで体重が増えてしまうことに。
注目したいのが、人間の遺伝子に結合している『BMAL1(ビーマルワン)』というタンパク質。これは、脂肪を溜め込むための酵素を増やす働きをするのです。いわば「脂肪を蓄積せよ!」という司令塔の役割り。しかも、体内リズムと密接な関係があり、時間帯によって増減。昼に少なく、夜に増えるという特性があるのです。
特に、1日のうちで午後10時~午前2時頃にピークを迎え、午後3時頃にいちばん少なくなります(下の図参照)。午後10時~午前2時頃のBMAL1は、午後3時頃の約20倍にも達するというデータが。「夜遅くに食べると太る」というのは、分子レベルで解明されているのです。
さらに、夜遅くに食事をすると、朝になっても空腹感が湧かず、朝食を摂らない人が多い様子。すると、生活リズムが乱れやすくなり、朝からボーッとしたり、夜の寝つきが悪くなってしまう場合も。
人間の体内時計は、本来25時間。それを、朝日を浴びることで24時間にリセットしている、という話は有名ですね。じつは、朝食もリセットするのに必要不可欠。特に朝、タンパク質をしっかり摂ると、24時間にリセットしやすくなる、という研究報告があります。
炭水化物(糖質)がエネルギーとして使われず、高血糖状態が続くと、糖尿病になる確率が高まります。血縁関係で糖尿病の人がいるなら、特に注意が必要。また、高血糖が長く続くと、血液が固まりやすくなり、血管が詰まりやすくなることも。
最近は『食後高脂血症』も注目されています。脂質の多い食品を多く摂り、エネルギーとして消費されない場合、血液中に脂質が増加。これが血管壁に入り込み、蓄積し、動脈硬化を引き起こしてしまうのです。動脈硬化が進むと、虚血性心疾患(心筋梗塞など)や、脳血管疾患(脳梗塞など)のリスクが増加。
BMAL1がピークになる午後10時前後に食事をするなら、一般的な夕食時間である午後7時頃に、おにぎり1個くらいを食べておきましょう。昼食から時間が空きすぎて摂る夕食は、食べ過ぎる傾向にあるからです。おにぎりなら、仕事中にパクッと食べることができ、活動中なので炭水化物の糖質がエネルギーとして消費されますから。基本的に炭水化物は、活動量の多い朝や昼に食べるべき。
どうしてもスウィーツなどの甘味を食べたいなら、BMAL1のいちばん少ない午後3時くらいに食べるのがベスト。脂肪として蓄積しにくくなりますから。“3時のおやつ”は、分子レベル的にも理にかなっているわけ。
夜遅くなり、本格的に食事をする場合は、コンニャクやキノコ、海藻、野菜など、カロリーを気にしなくていい食材を摂るよう心がけて。炭水化物が食べたいなら、うどんや雑炊など、消化しやすい料理を選びましょう。肉や魚、豆腐などのタンパク質は、脂肪になりにくいので、夜遅くに食べても大丈夫。
タンパク質は主に、細胞の新陳代謝など、カラダをつくることに使われます。炭水化物や脂質が足りない飢餓状態のときだけ、エネルギーとして使われるので、脂肪になりにくい特性が。ただし、牛肉ならサーロインではなくヒレ、鶏肉ならササミなど、脂肪分の少ないものを選んで。調理方法も、揚げたり炒めたりするよりも、焼いたり煮たり蒸したモノのほうがいいですね。
脳の視床下部には、満腹を感じる満腹中枢があります。ゆっくり時間をかけて食べると、満腹中枢が刺激され、お腹一杯だと感じるから食べ過ぎ防止に。そのためには、よく噛んで食べましょう。また、ひと口ごとに箸を置くのも有効。しっかり噛めるし、次々に食べ物を口に入れないので、過食を防ぎます。
夜遅い食事だけでなく、糖尿病患者の方にとって、夏に気をつけたいのが脱水。血液中の水分が少なくなると、血中のブドウ糖が濃縮され、血糖値が高騰してしまうのです。血糖値の高い状態が続くと、糖尿病合併症発症の引き金になるので危険。カロリーのない水や麦茶などを、こまめに飲んでください。
夜遅い食事の場合、アルコールが付きものですね。アルコールは利尿作用があるので、軽い脱水症状を起こします。アルコールと水は、交互に飲むようにして、脱水を防ぎましょう。
この記事の監修
田中 明(たなか あきら)
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