順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科 教授
辻村 晃(つじむら あきら)
経験者はみな「のたうち回るほどの痛み」と口をそろえる尿路結石。
一体どんな病気なのか、順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科の教授であり、メンズヘルスクリニック東京で男性更年期外来・妊活外来を担当する辻村晃(つじむら・あきら)先生に話を聞きました。
そもそも「尿路結石」とはどんな病気なのでしょう。
「尿路結石とは、その名の通り、尿の通り道に結石が詰まった状態のこと。結石とは、体内の器官や管の中で作られる物質の凝固物のことを指します。尿の通り道(尿路)には、腎杯(じんばい)、腎盂(じんう)、尿管、膀胱(ぼうこう)尿道がありますが、腎盂でできた結石(腎結石)が尿管に下降して、尿管結石や膀胱結石になることが多いです」
強烈な痛みに襲われるといわれる尿路結石ですが、下腹部以外にも背中や腰、側腹部に激痛が走ったり、血尿が出たりすることもあるそうです。その痛みは、「腎臓が内部から引き延ばされるような痛み」と辻村先生は言います。
「激痛とともに、吐き気や嘔吐の症状や、発熱することもあります。結石が腎内にとどまっていれば、痛みを含めた症状はさほど強く出ません。腎盂から尿管に結石が下降すると激痛を伴うようになりますが、人によってはあまり痛みを感じない方もいます。
激痛の原因は、結石が腎臓内から尿管へ下降して、尿の流れを止めてしまうことにあります。結石が尿管にはまり込んでしまうと、尿が正常に流れなくなる状態になります。そして、尿が尿管の中に充満し、やがては腎盂まで膨らみます。これにより腎臓に圧力が加わって、激しい痛みが生じるという仕組みです」
尿路結石は近年、増加傾向にあり、日本人が生涯のうちに尿路結石になる確率は10%程度だと言いますそう。罹患する人は30~60代の男性に多く、生涯のうちになる可能性は男性が15%、女性が7%というデータや、。男性は女性の2.5倍かかりやすい というデータもあります。
「上部尿路(腎杯・腎盂・尿管)にできるものと、下部尿路(膀胱・尿道)にできるものに分けられますが、ほとんどは上部尿路。約90%以上はカルシウムを含むカルシウム結石です。
代表的な結石は、シュウ酸カルシウムで、リン酸カルシウム、またはその複合結石が大多数を占め、そのほか尿酸結石、リン酸マグネシウムアンモニウム結石、シスチン結石などがあります。症状がある場合の約70%は自然に排石し、30%は手術を必要とします。直径5mm以下は自然排石の可能性が高いとされています」
ちなみに、同じ「石」だからと、胆石と尿路結石を混同して考えている人がいますが、胆石は主に胆嚢(たんのう)にできるもので、尿路結石とはまったく別のもの。
肝臓で作られた胆汁は胆嚢で濃縮されますが、このとき、胆汁の成分のビリルビンやコレステロールが多いと結晶になって、やがて結石になるのだそうです。
では、尿路結石を引き起こす原因にはどのようなものがあるのでしょうか。辻村先生は次の8つを指摘しています。
尿路に何らかの通過障害がある人、たとえば腎盂と尿管の移行部が狭い人なども当てはまります。
尿素分解菌の感染による尿のアルカリ化が挙げられます。
日常的に水をたくさん飲むことは、結石形成の予防になるといわれています。水分をとると尿量と尿流が多くなり、尿中のいろいろな物質が溶けやすく、流れやすくなるからです。
過食や偏食は万病のもと。尿路結石の原因にもなりえます。とくに、動物性蛋白(たんぱく)と脂肪を取り過ぎると、尿中カルシウムを増加させ、クエン酸の尿中排出量を低下させます。これが、結石形成を促進する原因になるのです。また、シュウ酸を多く含む食品を多く摂取すると、高シュウ酸尿症となり、シュウ酸カルシウム結石の原因になります。ホウレンソウ、チョコレート、ナッツ類、タケノコ、紅茶にはシュウ酸が多く含まれていますので、注意が必要です。
高尿酸血症は痛風や痛風腎の原因となるものですが、尿酸結石の原因にもなります。プリン体を多く含む食事、とくにビールは尿酸値を上昇させるので、飲み過ぎは要注意。またビールを飲み過ぎると、かえって脱水症状になり、この脱水傾向が尿を濃縮させ、結石促進に作用するともいわれています。
これは血中カルシウム値が高値を示す病気で、尿路結石の原因になるといわれています。
ステロイドホルモンは骨吸収を増加させ、骨形成を抑制します。すると血中に出たカルシウムとリンが尿中に過剰に排泄され、結石が作られるのです。
ストレスがかかると、自律神経の調節が乱れます。交感神経優位になると、心拍数が上昇し高まり、緊張状態になります。血管の収縮がおこり、尿酸の排泄が悪くなり、尿酸結石の原因になるのではないかと言われています。
尚、尿路結石は人だけではなく、犬などの動物もなるそうです。飲む水の量が少なかったり、運動不足で尿が貯まりやすい状態になったりするとなりやすいのは人間と同じです。
尿管結石を患うと、どんな症状があるのでしょうか。
尿管結石になると、尿管中にある結石を膀胱に運ぶとき、尿管のぜん動運動から痛みが起こります。脇腹に大変な激痛が波のように起こります。
尿管結石になると、結石が尿管を通るために尿管を痛め、血尿が出ることがあります。また、痛みによって吐き気が誘発されることもあります。
尿路が傷つき、尿の流れが悪くなることで細菌感染が引き起こされ、高熱を発する場合があります。
尿路結石を治療したい場合、薬物療法と手術療法から選択することになります。
尿管結石が10ミリ以下の大きさの場合、尿の量を増やして、結石を排出できます。水分を摂取して内服薬を処方します。
10ミリ以上の大きな結石になると、結石を自然に排出することは困難です。そのため、薬物療法に加えて手術療法を行う必要があります。
手術療法には、衝撃波を体の外から当て続けて結石を砕いたり、内視鏡を尿管に挿入してレーザーで結石を砕くなどの術式があります。
食事やストレスなどは、ほかの病気にも通じる原因。やはり、不規則な生活は万病のもとなのでしょう。
ほかにも、近年の研究結果から、尿路結石と動脈硬化の発症にはきわ極めて類似点が多く、「尿路結石はメタボリックシンドロームの結果、発症する生活習慣病の一疾患である」との概念が提唱されてきているそうです。
「メタボリックな因子を予防する生活習慣は、尿路結石の予防にも必要不可欠。暴飲暴食は避け、十分な飲水を心がけ、適度な運動をすることが大事です。食事をしてから、すぐ就寝すると結石ができやすいという説もあります。なお、尿路結石に遺伝性のものはきわ極めて少ないといわれています。もちろん、原因遺伝子がはっきりしている単因子遺伝病もありますが非常に稀。尿路結石は食生活や生活習慣などの環境因子が関与して発症すると考えられています。ただし、家族内に尿路結石症患者がいる人は、いない人より2~3倍、尿路結石症になりやすいという報告もあります。家族や、ともに生活している人と一緒に、規則正しい生活スタイルを心がけることが大事ですね」
この記事の監修
順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科 教授
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医/日本生殖医学会 生殖医療専門医
辻村 晃(つじむら あきら)
兵庫医科大学卒業。国立病院機構大阪医療センター勤務後、ニューヨーク大学に留学し細胞生物学臨床研究員を務める。大阪大学医学部泌尿器科准教授などを経て、順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授。特に生殖医学、性機能障害の治療に注力し、不妊に悩む数多くの夫婦を助けてきた。
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